現代のラグジュアリーウォッチのキーワードのひとつに、「アンダーステートメント」がある。ひけらかさずとも個性を主張し、気負うことなく日常的に魅力を味わえる｡ジェイコブの「エピックX」が提案するのはそうした新たなラグジュアリースタイルだ｡「X」をモチーフにしたスポーティーなデザインに、COSC認定クロノメーター取得の精度を秘め、ブランドの新境地を切り開く。

スポーツへの挑戦、精度に至る

そのブランド名から思い浮かぶタイムピースはさまざまだろう。「ファイブタイムゾーン」や「アストロノミア」「カジノ トゥールビヨン」「ブガッティ トゥールビヨン」などあまりにも多彩で、そこに一貫性はない。だが、それこそが最大の個性であり、まさにあふれんばかりの発想と創造性から生まれる。そして、ゴージャスと超複雑機構を融合した唯一無二の存在は、多くのセレブリティや好事家を引き付けているのだ。

　ジェイコブは、1986年にニューヨークのジュエリーブランドとしてスタート。オリジナルウォッチを目指し、2002年にファイブタイムゾーンで本格参入。ストリートカルチャーやクラブシーンと結び付き、アーティストやスーパーモデルが愛用したことで一躍世界に名を馳せた。

06年には超絶技巧を駆使したスーパーコンプリケーションという次のステージへと進み、数多くのモデルを手掛ける。それと並行し、15年に「エピックX」を発表した。

ベゼルからラグへと続くXをモチーフにしたデザインに、スケルトン文字盤には縦方向に輪列をレイアウトした手巻き式ムーブメントを収める。位置付けはエントリーモデルとはいえ、極めて斬新だ。以降、クロノグラフ、セラミックスといったバリエーションを発表し、コレクションを構築。誕生10周年を迎え、登場した新作が「エピックX スポーツ」だ。

44mm径からダウンサイズした41mm径のケースは、より薄くなり、センターセコンドでの登場となった。既存モデルがほぼ2針モデルであることを踏まえると異色作である。さらに、内蔵したジェイコブ コピー自動巻きムーブメントは、COSC認定のクロノメーターを初めて取得した。こうした実用機能と精度を追求した内容は、ブランドの新境地と言えるだろう。

シンプルながらも、独自のケースデザインや幾何学パターンを施した文字盤、ジェイコブが多用する鮮やかなスカイブルーは、存在感をより際立たせる。それは個性豊かなタイムピースを展開するブランドにおける、ひとつの表現であることを強く印象付ける。限定ではないがレアモデルであり、それもマニア心をくすぐる。「X」の名を冠するにふさわしい、新たな領域への挑戦だ。